立川の西部、横田基地に隣接する畑で珍しいカラフル野菜やヨーロッパ野菜を中心に少量多品目の野菜を生産している小山農園。ここでは、代表の小山三佐男さんが愛情と心血を注いで、面白い野菜を育てています。料理人から農業の世界へ、そして今の挑戦へもともと料理人だった小山さんが農業の世界に飛び込んだのは、結婚を機に農家に婿入りしたことがきっかけでした。最初の1~2年は何もわからず、手探りで修行を続ける日々が続きました。天気や病気など、初めてのことばかりで、さまざまな人に教えをいただき畑作りに取り組んでいたそうです。ある日、小山さんはようやく実ったキャベツを販売所に持ち込みました。しかし、そこで提示された買取価格はわずか8円でした。その年は豊作で、需要と供給の関係からその価格でしか売れなかったのです。この時、小山さんは農業を続けるべきか、それとも新しい道を模索すべきか悩みました。悩み抜いた末、小山さんが選んだのは後者―――、新しい挑戦でした。このきっかけとほぼ時を同じくして、知り合いのシェフから「全量買い取るから紅芯大根を栽培してほしい」との依頼が来たこともあり、少しずつ面白く、珍しい野菜づくりをはじめていったそうです。カラフル野菜の魅力と輝く個性畑に伺った6月、新種の赤トウモロコシが青空を目指して育っていました。これは「大和ルージュ」とよばれ、創業100年以上の老舗種苗会社「大和農園」(奈良県天理市)が2022 年販売開始した新品種の赤いスイートコーンです。大きくなると背丈は3mにも伸びるそう。大和ルージュは表面部分にポリフェノールの一種・アントシアニンを豊富に含み、糖度は15~16度で、サツマイモのような優しい甘さとモチモチとした食感で、トウモロコシの風味と旨味を味わえます。もっと大和ルージュを広めてほしい、との声を受けて小山さんも栽培を始めました。通常のトウモロコシに比べて、育ちがゆっくりではありますが、台風などに強く力強く育つのが特徴です。紫色に近い深い赤色の実がぎっしりと並んでいる様子は、まるで輝く赤い宝石のようです。小山農園が位置する立川市から、都心部までは1時間程度。特急列車や道路状況によってはもっと早く、到着することができます。都市農業には多くの利点があると話す小山さん。三方良しの東京の農業都市部に近ければ近いほど新鮮で高品質な野菜を提供できるため、地産地消の推進に貢献します。また、輸送時間が短縮されることで、環境負荷の低減にも寄与します。また、日本でトップレベルの飲食店が集まる東京の飲食店では、小山さんのカラフル野菜も重宝されることも多いとか。野菜作りは土づくり、とも言われるように、小山農園を支えるひとつの要素として、ふわふわの土があります。まるでパウダースノーが積もったかのようなこの土は、有機物を豊富に含む堆肥のおかげで土壌の微生物活動が活発になっている証拠です。小山農園では、堆肥にコーヒーかすを混ぜたり、有機肥料に地元のブリュワリーで出たモルトかすを混ぜ合わせたりして、循環型の農業を実践しています。また、近くに横田基地があるため、鳥の被害が少なく、安心して野菜を育てることができるそうです。この日も、話をしているうちに何機か小山さんの後ろで横田基地から飛行機が飛びたっていきました。自分の野菜を必要としている人のために届けたい小山さんは農業を続けていくうちに、ただ野菜を作るだけでなく、市場のニーズを見極めることの重要性に気付いたと話します。無理に販路を広げるのではなく、必要とされているところに自分が育てた野菜を届けたいという思いを形にしてます。そして、カラフルで珍しい野菜やヨーロッパ野菜を少量多品目で生産するという独自の方向性を打ち出し、今日の小山農園の基盤を築き上げています。納品先のお店には必ず顔を出し、料理を食べに行くことも大切にしている小山さん。The Oliveaのオープン後も宮古島に駆け付けました。渡邉明シェフがお取引農家さんを集めた食事会で、横のつながりもたくさんでき、日々勉強!と話す姿に、次はどんな面白い野菜が届くのかとてもとても楽しみです。